わかば

ねえ、僕にできることがあったらなんでも言ってね、君の役に立ちたいんだとか、少しでもあなたの役に立てたならよかったとか、また来てとか、馬鹿じゃないの。
あんたら、仮にも宇宙の神様みたいなもんなんでしょ。
それがどうしてこんな一介の十七歳相手に頬染めてんの。
何そんな献身的になって大事な力使いまくっちゃってんの。
あなたの為の薔薇ですって言われても、ねえ。
切ったのはあんたじゃなくて使用人でしょ、さも自分で摘んだみたいに言われても。
あんたのそのきれーいな指じゃあ、無理でしょう、棘のついた花摘むなんて。
そんなにおっきな目をきらきらさせるのは、もっと清楚な女の子相手にしとけ、っての。
ああ、あたしがそうだと思われてるのか。
困った。
いや、うん、悪い人じゃないんだけどねえ。
みんな。
あたしがいつまでもここに馴染んでないってだけで。
だからこれはあたしの問題。
なんだわ、きっと。
でも解決するのも面倒だなあ。
だってどうせ、あたしここにずっといる訳じゃないし。

みんなにとったら此処が正しい場所で、あるべき世界、なんだろうなあ。
あたしにとっての故郷みたいに。
自分がいる場所を基準に考えるのはね、誰でもそうだと思うわ。
方言とか習慣とか。
このきれーな聖地がね、しゅごせーさまのいるべき所なんでしょ。
でもあたしは期限つきのバイトをしに来てるようなもんなんだから、なんにも別に、あのキラキラした人達と一緒に優雅にお茶なんてする必要はないのよ基本的に。
体面を保つのに、月に何回かは行ってるけど。
バイトとはいえ、仕事場の対人関係は大切ですからね。
このお茶おいしいですねうふふなんて言うと作り方を教えてくれるけど、あんなもん一回も自分で作った事ない。
いや、おいしいのはほんとなんだけど。
そういえば、あの紙切れ、どこに行ったんだろう。

あんなのは無駄だわ、無駄。
人生には無駄な時間も必要なんて言うけど、あれはそんなのとは別次元。
人間様が汗水垂らして金稼いで家族を養ってるとか毎日上司に怒られたりしてるとか、自分が食べてる野菜がどこから来てるとか、そういう事を知らないんだわ。

なんかそういうのに腹を立ててること自体、とっても不毛だと思うんだけど。
一度考えるとどこまでもぐるぐるしてしまうたちなので、これは仕方ない。
大体こういう風に考え出しても、最終的に答えが出る事って絶対ないって分かってるのに。
考えに考えて、ああーもう分かんないいらいらする!ってなってきたら、いよいよ終わり。
余計どうにもならないネタを考えちゃう、そんな風に出来てるこの不器用な脳味噌。

すっごい嫌だったのが、アレ。
ユーイ様(ほんとうは尊敬してる人なんて一人もいないけど、立場上一応みんなのことは
サマ付けで呼んでる。偉い、わたし。)を説得した時。
この宇宙は女王のお力のおかげで動いてるんですって言った時。
言ってて自分で鳥肌立ったなあ。
正直女王とか、どーでもいいじゃねーかとか思ってますよ。
生活が出来て生きていけりゃあね、世界の原動力なんて何だって良いのよ。
感謝するのは目に見えない神様だとか女王だとかそんな不確かなもんじゃなくて、ここまで土地を守ってきてくれた祖先様に対して。
女王なんて知らなくたってね、生きていけるんです。
ああ、それを言ったら地上の人間の暮らしをよく分かってないあのひとたちの事もあんまり何やかんやと言えないか。
ううん。

ああほらまた、どうしようもなくなった。
ああもう、いらいらするなあ。
よいしょ、やたら少女趣味な椅子から立ち上がった。


しばらく歩いて重厚なドアを叩いたら、中からけだるうい返事。
まあだ寝てたのかな。
確か今って午後三時半。


「おおー、なんだおまえか。入れ」
「お邪魔しまーす」


部屋の主は寝てなかったみたいだ、いちおう。
でもものすごく酒臭い。
換気もしてないな、これは。
なんだか部屋の中が濁って見えるのは気のせいじゃあ、ない。
テーブル隣にあるおおきなソファにぼすっと座って、ポケットから火種を出した。

「あーーーー落ち着く。もう、ここに住みたいなあ」
「俺は構わねえけどよ。つうか意味分かって言ってんのか、ソレ」
「何言ってんですか。お金取りますよちゃんと」
「ちゃんと…いや、犯罪じゃねえか!」
「やる気だったんですか。金払って」
「う、ぐ、」
「嘘ですよ。喜んで足開いちゃいますよ、タダで」
「…俺もうお前と会話すんのやだ」
「あははははは!」

聖地にいて唯一素でいられるのって、ここにいるときと寝てるときだけなんだよなあ。
この人、絶対あたしより適当だしやる気ない。
やる事はちゃんとやって下さってますけどね。
首座ですから、一応。
いちおう。
やる気っていうか、向けるエネルギーがみんなと違うのね。
仕事の意識が、宇宙の為に!って感じじゃあないの。
そこがあたしと一緒で、あと、くだらない事にいちいち目くじら立てない。
一緒にお酒飲んでくれるしね。
たまにきっれーなカクテル作ってくれたりして、そういうのがすごく嬉しかったりする。
すっと口に咥えれば、当たり前のように火、つけてくれるし。
自分の部屋で吸うと面倒だろうからって、ここ提供してくれて。
私物とか服とかもいろいろ置かせてくれて。
みんなわかってないなー。
多分このひとがここで一番やさしい。
やさしい?
ああ、やさしさの基準は何か知らないけどね、あたしにとってはこの人の隣とこの部屋が
一番居心地いいからそういう事で良いんじゃないかな。
見た目どおりの性格してるけど、そこでこの人を決め付けてるちびっことかもう、下半身総剃毛の刑にして公衆の面前に裸で晒してあげたいぐらいむかつく。
ていうか普通に似合うんじゃないの?剃毛。
そのキラキラフェイスに。
あはははは。

なんてね、冗談だけどね。
本気で思ってないどうでもいいことばっかり言うの、得意なの。
なんか知らないけどみんな真面目に受け取っちゃって困ってるんだけどね。
冗談が通じない人って純粋なのか盲目なのか、分かんないなあ。
ああまあ、そんなのはどうでもいいや。
あー、服がいよいよ臭くなってきた。
着替え置いといて良かった。
今着替えたらまた臭くなるから、あとで良いや。

この人専用のおっきな灰皿に短くなったわかばを押し付けて、ビールを一口飲んでから、ソフトケースからまた一本出した。
火を点けながら吸い込むと、口の中いっぱいに渋い味が広がっていく。
初めてこれを吸ってるのを見られたとき、笑われたっけなあ。
そんなの吸ってる女なんか初めて見た!
失敬なおにいさんですね、まったく。
あなただって青年の癖になんですか、その水色のパッケージは。
そのマークはアスタリスクかっての。
て、言ったらまた笑われたんだけどね。





その前から好きだったんだろうなあ。
この人のこと。
期限つきの中で人を好きになるなんてそんな虚しいのは絶対嫌だったんだけど、だから悪態つきまくったんだけど、それでもこの人、わらってるんだもの。
すきだなんて認める予定はどこにもなかったのに。
ばーか。

死ぬ程つまんないこんなとこに呼ばれてなきゃ会う事すらなかったって、なんなの。
うんめい、ですか?
そんな下らないものにしがみ付きたくなるくらい不安定でぐらぐらしてるのは仕方ない。
だってあたし、一年契約だもの。
十八になったらもう絶対に会えないとか、ありえないんですけど。
勘弁してよ。

こんなことを考えてるのがもう嫌だからまたライターに火を点けた。
安っぽい音で燃えるほのおと一緒に、この世界も燃え尽きてみんな死んじゃえと思ったのは、あたしだけの秘密だ。



明日もまた船で、惑星大移動。
こんな行き場のない恋をして、宇宙のためにタダ働きして。
なんのために生きてるんだか、なんて一瞬でも考えてたまるか。
絶対にまた、
あたしはここに戻って来るんだから。

20150324

20150419

歌姫庭園出ます

カットは夏樹+やよいだけど

どうなるかな