七海のチェロケースを見ると、御守りがついていた。
先日まではなかったものだ。
近いうち何かあるのだろうか。
部でテストがあるわけでもなし、中間は終わったばかり。
紫色の生地に金糸で刺繍されているその御守り。
星奏にいるという、あの同級生の家で買ったのだろうか。
七海が御守りを持っているというのは氷渡にとってものすごくどうでもいいことだったのだが、あまりにも暇だったのでそれを見つめながら何の得にもならない色々を考えていた。
「あ、」
氷渡がそれをずっと見ていたのに気付いたのか七海が声をあげた。
なんだか妙に照れているような顔で、うじうじと氷渡を見ている。
やっぱり気持ち悪い、氷渡はそう思った。
「その御守りつけてから、おれすごく調子いいんです!英単のテストも満点取ったり、いま練習してる譜も順調に進んでたり」
それはお前が努力して他人に認められたから調子が良く感じるのであって、神頼みの小さな袋をつけたからじゃないだろう。
そう言い返そうとしたが七海があまりに嬉しそうに話すのでやめた。
「やっぱり思い入れのあるものを身につけると違いますね!」
さすが氷渡先輩の髪の毛だなあ。
嬉々として語る輝いた顔面に拳を見舞う力もなく氷渡は倒れそうになった。