「あ、」
何かに気付いたような声がしたので顔をあげる。
その前から七海は氷渡をじっと見ていたので自然と目線がかち合った。
「何だ」
「いえ、前髪の左のほうに…その」
枝毛が。
なんだそんなもの、と溜息を吐いたら七海は抜いて良いですかと言ってきた。
断る理由もないので了承すると、椅子を移動して氷渡の前までやってきて嬉しそうな顔をした。
じゃあいきますよ、声と共に頭皮が引っ張られる小さな痛み。
ぷちん。
七海が、引き抜かれた一本の髪の毛をじっと見ている。
カラーリングで痛んだ、価値のない髪。
それを真剣な目で見つめている後輩。
「先輩、これもらってもいいですか」
氷渡は心底気持ち悪そうな顔をした。